パーキンソン様症状と脳幹部脳梗塞――認知症診療から見えてきたこと
- 賢一 内田
- 6 日前
- 読了時間: 3分

認知症を診ていると、ある一定の割合で「パーキンソン病に類似した症状」を呈する患者さんに出会います。私が外勤していた整形外科主体の病院でも、脳外科外来に「ちょっと物忘れが気になる」といった理由で受診された方々の中に、こうした症状を多く認めました。
中でも印象的だったのは、軽度の脳梗塞、特に脳幹部に病変を持つ方が非常に多いということです。
「脳幹部」が障害されるとどうなるのか?
人の脳は、それぞれの領域に特定の役割(=機能局在)があります。そのため、脳のどの部位が障害されたかによって、出てくる症状もおおよそ決まってきます。脳梗塞によるこれらの症状は「巣症状」と呼ばれます。
脳幹部が障害されると、以下のような巣症状が出現します:
① 意識障害・せん妄
脳幹には「脳幹網様体」という、意識を保つ中枢があります。ここからの神経刺激が大脳皮質へ広がることで、私たちは目覚めていられます。
この働きが障害されると、**嗜眠(うとうとする状態)や昏睡、せん妄(興奮・混乱状態)**といった症状が出現します。私の経験では、陽性症状(興奮や幻覚)を伴うせん妄が多く見られました。
② 片麻痺・歩行障害
脳幹には運動神経が集束する経路(錐体路)が通っています。ここが障害されると、半身麻痺(片麻痺)が生じることがあります。特に下肢の麻痺が目立ち、軽い歩行障害として現れることが多いです。
③ 眼球運動障害・瞳孔異常
脳幹には、眼球の動きや瞳孔の調節に関わる神経も存在します。そのため、眼球運動の異常や瞳孔の異常(左右差など)も見られることがあります。
これらの症状は、ときに脳ヘルニアと呼ばれる重篤な状態の兆候であることもあります。脳ヘルニアは大脳の広範な梗塞や出血などで脳幹が圧迫された結果生じ、命に関わる状態です。
パーキンソン症状と脳幹部の関係
パーキンソン病様の症状を引き起こす「錐体外路系」の中枢は、脳幹部や大脳基底核に存在しています。したがって、脳幹部の脳梗塞はパーキンソン様症状を引き起こす大きな要因のひとつとなります。
実際に、レビー小体型認知症の患者さんでは、パーキンソン症状とせん妄がしばしば認められます。これは、レビー小体が広く脳幹部や大脳基底核に分布しているためと考えられています。
経験からの実感
私が認知症診療に関わる中で、特に印象深かったのは以下の2点です。
認知症の患者さんに脳幹部脳梗塞が多い
その結果として、パーキンソン様症状やせん妄が高頻度で出現する
これらは、レビー小体型認知症との関連を強く示唆しており、今後も注視すべき臨床的特徴だと考えています。
在宅医療の現場で感じること
さくら在宅クリニックでは、逗子・葉山・横須賀・鎌倉を中心に、在宅での認知症診療にも力を入れています。レビー小体型認知症を含めた神経変性疾患の診療・サポートは、在宅医療の重要な柱のひとつです。
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