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傷にラップを当ててもいいの?専門家の見解と在宅医の視点から

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 4月10日
  • 読了時間: 3分

「傷口に食品用ラップを当てておくと早く治るって本当?」最近、そんな話を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

朝日新聞デジタルに掲載された記事では、日本熱傷学会が「ラップは絶対に使ってはならない」、一方で日本褥瘡学会は「やむを得ない場合は考慮してもよい」と見解を示しています。専門家の意見も分かれる中、実際のところはどうなのでしょうか?

今回は、傷が治る仕組みを含めて、在宅医の立場からわかりやすく解説します。

傷を治す「湿潤療法」とは?

人はケガや火傷をすると、傷口から「浸出液(しんしゅつえき)」という液体が出てきます。実はこれ、ただの体液ではなく、傷を治すための栄養がたっぷり詰まった“天然の治癒促進液”なんです。

この浸出液をうまく活かして、傷を乾かさず湿った状態に保つ治療法が「湿潤療法(うるおい療法)」と呼ばれています。

この考え方を広めたのが、夏井睦先生。2001年にインターネット上で湿潤療法を提唱し、「消毒・ガーゼ撲滅」を掲げたことで注目を集めました。

なぜガーゼはNGなの?

一昔前までは、傷にガーゼを当てるのが当たり前でした。ですが、ガーゼは浸出液を吸い取ってしまうため、せっかくの“治癒液”が失われてしまいます。

さらに、ガーゼが乾くと傷にくっついてしまい、はがすたびに出血したり、痛みが強くなったりと、かえって治癒の妨げになることも。

ラップを使うとどうなる?

ここで登場するのが食品用ラップ。浸出液を逃さず保持してくれるため、湿潤環境を保つには一見よさそうです。しかもガーゼのようにくっつかない!

…ですが、ラップには大きな欠点があります。それは「吸収しない」こと。

浸出液がそのままラップ内に溜まりすぎると、皮膚がふやけたり、細菌が繁殖しやすくなり、感染の原因となります。これがラップ療法の一番の問題点です。

感染の原因は、ラップが「汚い」からではなく、浸出液が“とどまる”こと。つまり、うまく吸収しつつ湿潤環境を保てれば問題ないのです。

現在の「創傷被覆材(そうしょうひふくざい)」は優秀!

今では、市販されている創傷被覆材の多くが、

  • 傷を乾かさず湿潤を保つ

  • 浸出液を適度に吸収するという2つの機能を兼ね備えています。

製品によって吸収力の強さなどが異なるため、傷の状態に応じて使い分けるのがポイントです。

ラップ療法は「応急処置」として活用を

ラップは医療用ではなく“家庭用食品ラップ”です。したがって、積極的に使うべきとは言えませんが、

  • 創傷被覆材が手元にない

  • 一時的に処置をしておきたい

という場合には、応急処置として短時間だけ使用するのは選択肢になります。

例えば、褥瘡(床ずれ)などで一時的にラップを当てておき、その後に適切な被覆材へ切り替えるなどです。

ただし、ラップのみで継続的に処置を行う場合は注意が必要。浸出液の量をしっかりコントロールするために、

  • ラップをこまめに交換する

  • ラップに小さな穴をあけて通気性を持たせる

  • 上からガーゼやオムツで吸収させるといった一手間が必要になります。

まとめ

✅ 傷は「湿らせて治す」時代へ✅ ガーゼは浸出液を吸いすぎるため不向き✅ ラップは吸収しないので感染リスクあり✅ 創傷被覆材がない場合の短期的な応急処置としてラップは活用できる✅ ただし、浸出液の管理が重要!

在宅医療の現場では、こうした知識が日々のケアに直結します。もっと詳しく知りたい方は、ぜひYouTubeチャンネルで在宅医・内田賢一がわかりやすく解説しています!


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