認知症診療に関する記載として、非常に有用な本です。そしてこの筆者の最も言いたいところは、「一般臨床医は抗認知症薬を使わないのが基本」だと思います。この意見には、非常に同意します。病院勤務時に日本で使われている抗認知症薬が、ごく普通に一般内科などから処方されている場合があります。そして、「効果ありましたか?」と聞いて肯定的な返事を聞いたことがありません。そもそも認知症は様々な病型が混在しており、処方すべきでない患者さんも多数います。しかし、こうした患者さんを一括りにして抗認知症薬処方するのは非常に乱暴です。こうした処方は副作用も懸念され、抗認知症薬が日本で承認された際の非科学的な過程も考慮すべきです。
またこの本では具体的な数字が載っており(レビー小体型認知症に幻視が現れる確率は70%など)論文が明記されています。引用している論文はかなりの数です。私見ではなく、科学的根拠から結論を導いているので、説得力があります。他にも、抗コリン薬の問題、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の問題、アルコールの問題、ポリファーマシーの問題なども取り上げられています。
同じ出版社からは、『高齢者診療で身体診察を強力な武器にするためのエビデンス』という素晴らしい本が出ていますが、本書の構成やコンセプトはそれに近く、タイトルを変えるのであれば、『認知症診療で強力な武器を持つためのエビデンス』になるでしょうか?
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