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認知症の入院と身体拘束の現実 〜尊厳ある生を守る選択とは〜

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 4月11日
  • 読了時間: 3分

以前も取り上げたテーマですが、改めて大切なことなので、もう一度書かせていただきます。

認知症の患者さんが一般病院へ入院されると、高い頻度で身体拘束を受けるケースがあるのをご存じでしょうか。

その程度は様々で、ベッドから起き上がれないように完全に拘束される場合もあれば、車椅子に固定される程度のものまであります。これは、転倒やチューブの自己抜去、院外への徘徊などのリスクを回避するための措置です。実際に「病院の外で保護された」という事例もあります。

身体拘束がもたらす“負の連鎖”

しかしこの身体拘束、リスクを避けるためとはいえ、決して軽い代償ではありません。拘束によって筋力が低下し、歩けていた患者さんが歩けなくなり、寝たきりとなり、誤嚥性肺炎を併発し…。私はこうした事例を、星の数ほど見てきました。

病院という“非日常空間”では、日々の暮らしとの感覚がかけ離れており、当事者にならなければその現実に実感が伴わないことも多いのが現実です。

約45%が拘束されているという事実

国立がん研究センターと東京都医学総合研究所の調査によれば、認知症患者が病気や怪我で入院した際、約45%が身体拘束を受けていたという報告があります。

研究チームは、

「拘束が習慣化している可能性があり、身体機能の低下や認知症の進行といったデメリットも十分に考慮し、不必要な拘束は減らすべき」と指摘しています。

医療現場の苦悩

介護施設では身体拘束は原則禁止。精神科病院では法的に限定的に認められている一方、一般病院では医師や看護師の判断に委ねられているのが現状です。

では病院側が「拘束しすぎ」なのか? 一概にそうとも言い切れません。以下は実際の事例です。

【判例】熊本地裁 〜拘束せず転倒、病院に賠償命令〜

2013年、熊本市内の病院に入院していた95歳の認知症男性が、トイレに行く途中で転倒。頭部を打って全身麻痺となり寝たきりに。これに対して遺族が病院に約3,890万円の損害賠償を請求、熊本地裁は病院側に約2,770万円の支払いを命じる判決を下しました。

判決では「転倒の危険性は十分に予測できたにも関わらず、病院側が十分な見守り義務を果たしていなかった」とされました。

「拘束か、尊厳か」の選択肢を

こうした判決を踏まえると、病院側としても事故を起こさないために**“過剰な拘束”をせざるを得ない状況**があるのです。

ではどうすれば良いのでしょうか?

私はあえて提案したいのです。「身体拘束に同意」するのではなく、逆に『身体拘束をしない』ことへの同意書という選択肢もあるのではないかと。

これは、拘束しないことで万が一事故(転倒・抜管など)が起こった場合でも、病院側の責任は問わないという合意です。

つまり…

  • 事故を起こさないために身体を拘束し、安全を優先するのか

  • 人間らしい生活の自由を守るために、ある程度の事故リスクを許容するのか

この選択を、当事者と家族の意思で行っていくべき時代ではないでしょうか。

私自身、もし将来認知症を患ったときには、「尊厳ある生」を選びたいと考えています。

“転倒しないように縛られ、おむつで排泄し、廃用が進んで寝たきり”よりも、“自分の意思で動き、時に転倒しても自らの天命をまっとうする”

結果として寝たきりになるとしても、その過程に“人間らしさ”があるかどうかが、私にとっては何より大切です。

このテーマについてはYouTubeでも解説しています。ぜひご覧ください。

#在宅医療 #認知症患者の身体拘束 #尊厳死 #医療と人権


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