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高齢ドライバーの交通事故から考える、認知機能と薬の影響

最近、神奈川県茅ケ崎市で90歳の女性が交差点で4人をはねる事故が報道され、大きな注目を集めました。同様のケースとして、過去には東京・池袋で90歳の男性による死傷事故も記憶に新しいところです。

このような高齢者による重大な交通事故は、アクセルとブレーキの踏み間違いや、高速道路での逆走といった形でたびたび報じられています。

さらに、交通事故による死亡者の半数以上が65歳以上の高齢者であるという事実も、見過ごせません。これは、加害者・被害者のいずれも高齢者が多いという現状を示しています。

認知機能の低下が事故リスクを高める

その背景には、やはり加齢に伴う認知機能の低下が関与していると考えられています。

以下の図は、平成29年に交通死亡事故を起こした75歳以上のドライバー385人のうち、**認知症または認知機能の低下と診断された割合が49%**であったことを示しています。


出典:警察庁資料(平成29年)

認知機能検査だけでは不十分?

平成29年に施行された改正道路交通法では、75歳以上の運転者に対して3年ごとの認知機能検査が義務化され、認知症の疑いがある場合は医師の診断が必要となりました。

ただし、茅ケ崎の事故の運転者も検査では「異常なし」だったと報道されています。このことからも分かるように、認知機能検査だけで事故を完全に防ぐことは難しいのが現実です。

医師として注目すべき「薬の影響」

私が医師として特に気になるのは、事故を起こした高齢者が認知機能に影響する薬を服用していなかったかという点です。

とくに問題となるのは以下のような薬剤です:

  • ベンゾジアゼピン系睡眠薬

  • 抗精神病薬

これらの薬の中には、効果が長く続く(半減期が長い)タイプも多く、夜に飲んだ薬が翌朝まで作用し、運転時に注意力や判断力を鈍らせていた可能性もあります。

「免許返納」は個人差を無視すべきではない

一部では「高齢者は皆、免許を返納すべき」といった声もありますが、認知機能には個人差が大きいため、一律の判断は難しいと感じています。

また、私は福井や静岡といった車がないと生活が困難な地域での勤務経験はありませんが、生活の足として車が必要な高齢者が多い現実も理解しています。

私たちができること、社会がすべきこと

私自身ができることは、できる限り認知機能に悪影響を与える薬を処方しないこと。そして、自動運転や運転補助技術の発展を支援することだと考えています。

これから迎える超高齢化社会では、高齢ドライバーの問題は社会全体で取り組むべき課題です。制度やテクノロジーの整備とあわせて、一人ひとりの健康と生活を支える視点を忘れない議論が求められます。

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